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​サイボウズ 株式会社

――会社の問題を解決すればマタハラも解決できる!?

人材の移動がはげしいIT業界で、28%から4%へと離職率の大幅低下に成功したサイボウズさん。

人材活用のノウハウと、ユニークなワークスタイルの構築は、マタハラ対策としても学ぶことが多くあります。

今回のインタビューでは、サイボウズ・事業支援本部長の中根弓佳さんと、コーポレートブランディング部の渡辺清美さんに、独自のワークスタイルのポイントや、産休・育休からの復帰体験談をお伺いしました。

●忙しい職場で部下が妊娠したら●

――サイボウズさんは、社員が妊娠された場合どのように対応していますか。

中根 サイボウズではどの部署も人手不足ですので、退職休職がある場合は対応が必要な職場がほとんどです。だからこそ、「是非復帰してほしい!」と発想しています。人手不足は、実は復帰しやすい環境だとも言えますね。

実際に妊娠してからは、たとえば、つわりがあまりにひどい時は、休職することも可能ですし、在宅ワークや、時間をずらして働く等、できるだけ柔軟に対応しています。

――柔軟な在宅ワークが女性の働きやすさにもつながるのですね。サイボウズさんでは労働時間や残業をどのように把握していますか?

中根 時間管理をする人もいれば、裁量労働のメンバーもいます。時間管理スタイルは人によって異なります。

残業や深夜手当が発生する場合は、在宅ワークであってももちろん報告するように言っていますが、正直、その都度深夜の勤務の許可を出していると働きづらいという意見もあります。本人の希望に基づくことを前提に、法律も柔軟に対応できるように検討してほしいなと思いますね。

人によって生産性の上がる働き方は異なるので、個人の希望に対応できるのが理想的だと考えています。

もちろん、事前に申請して深夜労働する人もいます。サイボウズはクラウドサービスを提供しているので、メンテナンスはそのような時間になりますし、夜中であってもトラブルなどで仕事が生じたときも、深夜勤務や残業で対応してくれるメンバーがいます。対応しやすいように在宅での対応も可能にしています。

●サイボウズ式 その1「時間も場所も自由=九つの働き方」●

――なるほど、少しお伺いしただけでも自由なワークスタイルがあるとわかります。図にある九つの働き方が主なワークスタイルですか?

中根 そうです。縦軸と横軸は、時間と場所の分類です。この表の中から、ふだん働きたい該当箇所はどこか選択して、宣言してもらっています。

9分類といっても中身はいろいろなので、具体的に教えてもらうようにしています。たとえば、「9時から5時半の勤務時間を基本にします。ただし、仕事が残っていたら、多少自宅での仕事をします」という形ですね。

こうすることで、チーム全体が本人の希望を把握でき、仕事の割り当てがやりやすくなります。ちなみにサイボウズのなかで多い働き方はA1です。平均年齢が33.8歳と若く、ワークを重視するひとは多いです。

このように普段選択している働き方から、一時的に違う働き方をします、というのが、「ウルトラワーク」です。

たとえば、歯医者の予定を入れたい場合に、丸1日休みを取るのは非効率です。1時間で治療を済ませて、それ以外の時間は家で働くようにする。それがウルトラワークです。

このとき、「今日はウルトラワークします」と公開スケジュール上で連絡し、上司が確認したうえで実施します。公開スケジュールなのでチームメンバーも把握できます。連絡はできるようにしてもらっています。

働きやすい環境づくりのポイントは、短時間であっても、場所が在宅であっても、性別や家庭環境とはまったく関係なくワークスタイルを選べることではないでしょうか。

●サイボウズ式 その2「人事評価が目で見える! モノサシは市場価値と信頼度●

中根 サイボウズのもうひとつの特徴は、評価制度です。

●市場価値を指標に

――具体的な金額や評価が、グラフ化されて決められているんですか?

 

中根 個人によってそのスキルや働き方も異なるので、すべての状態をグラフ化するかは極めて困難です。さらに市場は変化しますので、毎年議論をしながら個別給与を決定しています、

サイボウズの給料の決定軸は、大きくふたつあります。

ひとつは、市場価値を指標にしていることです。ごく簡単に言うと、「いくらで転職できるか」分析しているということですね。

給与は成果や貢献度に応じた利益分配であるべきなので、年齢や勤務年数等とは関係ありません。市場価値が非常に高い人はそれにみあった報酬にするべきで、人材が流出するリスクもあります。

●信頼度で絞り込む!

中根 もうひとつは、社内の信頼度という指標です。

さきほどの市場価値は、市場需給なので幅があります。転職市場では、ほとんどの場合、A社なら500万、B社なら400万と幅があります。それをさらに絞り込むイメージで、社内信頼度で評価しています。

この社内の信頼度は、「action5+1」で測ることにしています。これは、次の5つのアクションスキルをあらわしています。

①あくなき探究
②心を動かす
③知識を増やす
④不屈の心体
⑤理想への共感

これらを評価対象にしています。

理想への共感というのは、たとえば、サイボウズというチームが掲げる理想にいかに共感し、自分のリソースを投下するかということです。

ですので、働く時間や場所、つまりその人の働き方も給与に関係します。

我々はこれに加えて、「プラス1=公明正大」を重視しています。チームで仕事をする以上、お互い信頼関係が必要です。その基礎となるのが、公明正大であると考えています。

――上司はどのように部下を評価するんですか?

中根 評価の目的はふたつあります。

ひとつは、その人を成長を助けるための評価。

人によって成長の速度は違います。ゆっくりこつこつ成長する人もいれば急カーブを描く人もいます。

成長にあわせた評価が必要です。「よく頑張った」と褒めるのが効果的な人もいれば、反対に「よく頑張っているんだけど、もっと頑張れよ」と言ったほうが成長する人もいます。

こういった人を伸ばすための評価方法がひとつです。この成長評価は、人事も関与することもありますが、直接マネージャーが行うのが基本です。

もうひとつが前述のとおり、給与を決定するための評価です。

「市場価値に乖離してきているので給与を見直したほうがいいと感じる」というようなコメントや、「信頼度が上がっています」といったコメントを部長らが提出して、それを人事が確認します。確認した後、評定会議で最終的に決定します。

――確認するというのは、360度評価のように部下に聞くといった方法ですか?

中根 いえ、360度評価ではありません。成長評価については、基本的には評価した上司のコメントを重視しています。市場価値について、人事は中途エントリー者のデータを常に見ていますし、あらゆる市場のデータをチェックしているので、おおよその市場価値の幅はわかります。

―― 一般的には、上司の評価は恣意的だったり、明確でなかったりします。サイボウズさんは、評価する上司の方々には、研修等でノウハウを習得させるのでしょうか?

中根 研修等は随時やっていますが、まだまだ改善しなければいけないな、と思うところはたくさんあります。評価されるプロセスはオープンにしています。

ここでのポイントは、評価をすべて具体的に点数化しすぎる、ということはしないようにすることです。

全部合わせて85点だから何評価で、それでいくら上がるというのが多いと思いますが、サイボウズは信頼度を測るという部分は定性的なデータで考えることが多いです。定量的なものは市場価値ぐらいですね。

このスキルに対してはこれぐらいの評価になる、という対応関係は、あいまいな部分を残しています。厳密に数値化、定義化しようとして失敗したことがありました。

このポジションの人はこれができるべきだといった要素をすべて書き出して細かい段階に分けたことがあったのですが、細かすぎて当てはまらない。しかも条件に該当して700万もらうことになった人の成果が見合っているかというと必ずしもそうではない。

 

かたや、あるスーパーパフォーマーの一部のスキルが突出していて項目には当てはまらないが市場価値という面では高いから給与は上げるべき、という状況もあって評価を数値化したり、共通基準を細かく可視化することはやめました。

渡辺 評価制度の不満も、高い離職率の一つの要因でしたね。

――なるほど。それで納得度の高い評価制度が必要だったわけですね。
評価の基準に、このaction5+1を使っているということですが、これは表があってそれに書き込み、上司のコメントなどのフィードバックを本人に見せながら行うのですか?

中根 そんなイメージです。サイボウズでは半期に一回、振り返り面談をやります。期初にその人のミッションが決まります。途中で変わる場合も多いですが。

これを達成するために、上司と本人が一緒に打ち合わせながら、必要な行動や身に着けるべき知識を相談して決め、改善目標を明らかにしておきます。それを半期の後に振り返るわけです。後者が成長のための評価ですね。

――ワークスタイルが問題になる企業は、フィードバックもなく、役員会議で部署ごとに2次評価が決められてしまい、どんなに1次評価があっても結局修正されます。その点、サイボウズさんはまさに公明正大ですね。

●子どもが小学生になるまで育児休暇がとれる!●

 ――もうひとつ、サイボウズさんらしい制度は、育児休業が最長6年間ということです。これは取得された方はいらっしゃるんですか?

中根 いませんが、一番長く取得したのは渡辺です。

渡辺 4年取得しました。2005年に社長が交代し、会社が大きく変わり始めた時期に妊娠しました。

2006年の8月、産休に入る月に、妊娠判明時からとれる産休や育休6年の制度もできました。ちょうど先輩が7月に育休から復帰して、休みがとれる状況にもなりました。

私は、中学時代から子どもに関わる機会が多く、保育士の勉強をするなど子どもの発達や育成に強い関心がありました。

子どもが一歳の時点で復帰を検討しましたが、見学した保育園の印象はよいものではなく、自分で育てたい気持ちが勝り、せっかく育休がとれるならば、保育園はぜひ預けたいという人にお譲りしたほうがよいのではないかと思い見送りました。

●復帰へのハードルは

――4年の育児休暇を取得してから復帰するときにハードルはありましたか? またそのときの気持ちはいかがでしょう?

渡辺 ハードルを高く感じていた時期もありましたが、いったん決めてしまえばハードルはなくなりました。

ああ、久しぶりにグループウェアの世界に戻ってきたな、という感覚はありました。産休に入る前から使っていた業務システムも継続して使われていたので、さほど違和感なく復帰できました。それに、人が増えていました。

中根 社員数は右肩上がりに増加しています。

渡辺 離職率が高い時期に妊娠して離れたのですが、制度を整えた会社に変貌し、新しくクラウド事業を本格化する直前の時期で、部署も人が増えていたんです。

以前は1、2人で担当した仕事が、3、4人のチームになり、仕事をシェアしやすくなっていました。

サイボウズの「変化・進化」を発信する仕事にも携わっているのですが、まさに変化を身をもって感じています。

●人手が足りない、復帰者がほしい!

――4年近く期間があいてしまうと、現在の職場の人数で仕事がまわせるようになり、戻るにもポジションがないのが普通の企業では多いと思います。そういうことはありませんか?

中根 人手不足のため、「是非うちの部署に戻ってきてほしい」という場合がほとんどです。とはいえ、もちろん配属先は各部署や本人の希望を聞いた上で決めるので、必ずしも元の部署とは限りません。

渡辺 私の場合は、以前私の業務を引き継いだ人がちょうど転職するタイミングに復帰しました。確かに、仕事がうまく回っているチームに復帰できるかは、微妙ですね。

――普通の企業だと、産休のあいだ派遣社員や別の正社員を採用すると、その人がそこに根付いてしまって、元の人が戻れない場合がほとんどです。戻ってきてもどうせ時短だからいらないと考え、いまのフルタイムで働く人を優先しますよね。

中根 よくわかります。サイボウズは人手不足ということもあり、復帰社員にも活躍してもらえるのかもしれませんね。

――人が増えているということは、業務もどんどん拡大しているということですか。

中根 そうです。

――成長が止まったり、減少したりすると……。

中根 状況は変わるかもしれませんね。

――成長し続けられるのは、サイボウズの精神があるからこそ、と言えるのでしょうか。

中根 そうですね。ワークスタイルの多様化を進めたおかげで、優秀な女性がエントリーしてくれます。当然、業務の拡大につながっていると思います。現在、日本国内で育休中の女性は、10人います。国内社員の人数は340人程度ですから、割合でいうと少なくはないかもしれませんね。

――人材が流出しない、それから優秀な人材が入ってくることが、今のサイボウズさんの強みなのだと。

●無理解な人をどうするか

――ある女性の働いている会社自体は外資系だということもあって、女性が働きやすいような制度になっているそうですが、上司への教育が不十分で、個別の対応では辞職をすすめられたケースがあったそうです。上司の教育は、人事研修で補っていますか?

中根 マネジメント研修等で共有したり、都度出てくる問題に、人事と一緒に対応したりすることで個々のマネジャーのトレーニングにつながっているかと思います。何か具体的かつ喫緊の問題を感じているわけではありませんが、やらなければいけないなと思っていることはあります。

イクボスの話をお伺いして、サイボウズにも問題があるかもしれないと思い、産休前のメンバーに集まってもらったことがありました。

率直な感想を求めて洗い出したところ、「むしろ気を遣われすぎ、妊娠しても別に物を運べるし、仕事もさほど支障はない」という反応で、現時点では問題はなさそうだと認識しています。

ただし、現在のこの状態を続けるためには、上司の理解の促進は常に必要だと考えています。妊活している人が、こころも金銭的にも、苦労を抱えていることをわかってあげられなかったり、知ってはいても、「また休むの?」とつい言ってしまうことがあるかもしれないので、そういう理解を促進するような情報提供の必要性等を感じています。

とはいえ、総じて妊娠している女性への理解はあるな、と思いますね。その理由のひとつに、マネージャーが30代後半ぐらいが多く、男性でも「目下育児中」という人が多いからというのもあるかもしれません。男性のマネージャーでも、保育園へ送るために10時出社、というメンバーもいます。

――マネージャーが若くて、育児に参加しているのは大きなポイントですね。普通の企業のマネージャーは、専業主婦を奥さんに持った、40代50代の方が多いですから。

●人手不足をチャンスに●

――もうひとつお伺いしたいのは、産休・育休を取得する時のことです。
マタハラの被害者には、看護師さんの相談がたくさんあります。看護の現場は、慢性的な人員不足で、産休・育休で休むのを許したくないという状況です。休むだけでなく、シフトが不安定になる、それも許容できないと。
人手不足という点では、サイボウズさんと同じですが、人が抜ける時の対応がまるで違います。人が抜けてしまう時のサイボウズさんの反応をもう少しお聞かせください。

中根 つい2週間前に、非常に優秀な女性が休みに入りました。正直に言うと、仕事の負担がかなり大きくなり、現場はきついです。

だからこそ職場では、大変になるけどみんな頑張ろう、これをきっかけに業務を棚卸し、不要なものを削り、標準化、可視化、共有化を進めよう、後輩メンバーにとってはチャンスだと思っていこう、とコミュニケーションしています。

また、その女性側も周囲で分担できるなら、復帰すると仕事がないんじゃないか、復帰したらどのような仕事ができそうかと、尋ねてきてくれたので、いくつか将来的に検討したいと思っていることについて話しました。課題が満載であることに安心したようです(笑)。

――負担をシェアできるよう、あくまでもポジティブな発想を止めないのですね。素晴らしいです。そのかたの仕事の穴は、どうやって埋めることになっていますか?

中根 派遣の方などにお願いする、新規採用メンバー、社内メンバーの役割分担変更等対応する予定です。いまは彼女の仕事は部署の中で分担しています。あとは仕事期日を調整しています。

●制度を変える勇気、維持する努力

――もうひとつお伺いしたいのは、28%の離職率があった状態から制度を変えていったときに、会社内でアレルギー反応があったと思います。そこから踏み出していく勇気についてお聞かせください。

中根 会社の大きな変革の中では、私自身も疑問を感じたり、やってみたりした結果、さらに変えていったほうがいいなと思ったものもありました。たとえば、短時間勤務の女性の給料の上昇幅についてはある程度決まった枠の中で、となったのですが、やってみた結果やはり違和感を覚え、意見を言って変わりました。

新しい制度は試験運用するようにしています。評価制度をどうするか、在宅勤務のセキュリティをどうするか、さまざまな問題がありますが、それを一つひとつ解消していきました。

不満を抱えこまずに、問題があったら是非教えてください、制度の理想を説明します。でも意見を聞いて、確かにその通りだと思ったら変更も検討しますと丁寧にコミュニケーションを続けるように心がけています。多様化への対応というところでは、想定できていなかったことがいろいろとおきます。それにどう対応していくか、がとても大事だと思っています。

――風通しが良いだけでなく、風通しを良くするための忍耐と努力。面倒な対話を厭わないからこそ、今の制度が維持されているんですね。
風通しの良さと言うことでは、上司の評価についても同様ですか?

中根 本部長、副本部長は匿名で社内メンバーから評価される仕組みになっています。ここでもaction5+1が指標で、市場価値や信頼度で同様に評価されています。

渡辺 評価結果をオープンにする上司もいますね。

中根 合宿があり、その評価を受けて自分の目標を決めるようになっています。

――オープンかつ公明正大を心がけていらっしゃるのが良くわかりました。

今回のお話をお伺いして、離職率28%の克服という、非常に強い危機意識と必要性があって生じた制度だということがわかりました。明確な意識があるからこそ、制度の維持にも力を尽くされているし、制度のブラッシュアップにも余念がない。


制度を変えて実際に業績が伸びていらっしゃるのが素晴らしいですね。とても嬉しく思いますし、頼もしく思います。

ありがとうございました。

今回のインタビューでは、働きやすい環境を作り維持するためにも、社内の不満と粘り強く対話を続けられた中根さんの姿が印象的でした。

 

自由な働き方を可能にするサイボウズさんらしい発想とインフラ整備もあってこそ、制度の改革が成功したと思いますが、中根さんの理解力・影響力の高さが大きな役割を果たしていたのがよくわかります。

 

マタハラは、制度だけの問題ではなく、上司の理解のなさにこそ発端があると思います。中根さんの姿をお伝えできたことは、マタハラ対策を紹介するのにもっともふさわしいものになったのではないでしょうか。

ご高覧いただきありがとうございました。

インタビュー:2015年6月

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