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株式会社 旅館総合研究所

●採用は主婦の方大歓迎●

小酒部 旅館総合研究所さんのホームページには、「主婦の方大歓迎!」と謳われ、求人も出されています。

今回のインタビューでは、「主婦の方を活かす」方針の理由と、主婦の方に活躍してもらうための秘訣をお伺いしたいと思います。

まずは、どんなお仕事をされているか、教えていただけますか?

重松正弥さん(以下、重松) 私達はクライアントである旅館やホテルに代わって、インターネットで宿泊プランなどの商品を提示する仕事です。旅館の経営者は高齢の方が多いので、インターネットを使ったPRなどはあまり得意ではなく、そこをお手伝いしています。

―― 社員にはどのようなスキルが求められるのでしょう。また、どのような人が向いていると言えますか?

重松 旅館やホテルのパソコン作業も代行するので、コツコツ正確に仕事をする能力が必要です。実際に採用したスタッフの傾向を見ると、女性のほうが向いている面があると思います。

 

もちろん力を発揮してくれる男性もいますが、色々採用しながら考えていたところ、バツグンに仕事ができるのは子どもを持つ主婦であることに気づきました。

 

子どもがいると、時間に限りがあって、遅くなる前に何が何でも帰らなくてはならない。そうすると、時間にシビアになって、仕事が効率化できる。仕事の期限を明確に意識し、「絶対に終わらせる」という意識が非常に高い。そうした傾向があると思います。

―― 主婦の方々を採用することで、会社全体の仕事ぶりはどう変わりましたか?

重松 効率のよい彼女達の仕事ぶりを見ているうちに、残業をしようがしまいが、あまり業務の質に変化はないと気づきました。100点の資料でも80点の資料でも、その資料が生み出す成果が同じであれば、80点の方が作業量は少ない。

 

「夕方5~6時までに終えられる仕事を、残業してずるずる引き延ばしているだけなのではないか」という感覚が、私の中で芽生えてきたのです。

また、当初は基本給に残業代を含む給与体系を採用しており、慢性的に残業が続くようになっていました。2008年の創業から3~4年目までその状態が続き、「健全ではない」と感じていたのです。

―― そして、その後、会社のあり方が少しずつ変わっていったのですね。この変化にはきっかけがあったのでしょうか?

重松 きっかけの一つは、2011年の震災でした。物事が止まってしまい、仕事がなくなってしまった。働き方を変えなければ、会社が危機的状況に陥ってしまうかもしれない。そんなことをうっすらと感じたのです。タイミング悪く、あの時期はたまたまたくさん人を採用していました。

当時は、自分の中の「意識の変化」に気づいていたわけではなかったのですが、今思い返してみると様々なことが積み重なったうえで、あのタイミングで方向づけられたのだと明言できます。

―― 確かに、働き方を見直したきっかけとして、2011年の震災を挙げる経営者さんは少なくありません。御社の場合、変化の背景には主婦の方が残業をせずに実績を上げている姿がありました。主婦の皆さんはどのように活躍されていたのでしょうか?

●子どもが毎日熱を出すわけじゃない●

重松 特定の誰かが明確なターニングポイントになっているわけではありません。

会社を始めて1年目に採用した社員で、仕事ができる主婦の方がいました。その方は残念ながら家業を継がなければならず、お互いに泣く泣く辞めてもらったのですが、そのときは特に「主婦がいいな」と確信していませんでした。

 

その後、NHKの取材を受けたときも、主婦社員が2人いて、やはり仕事ができた。そして現在のスタッフを見て、少しずつ“主婦の実力”に気付いていったのです。

私達のような中小企業では、“いい人”を採用することは極めて難しいのです。

高い給料を払ってあげられるわけでもなく、多様な仕事をこなしてもらわなくてはならないので専門的なスキルやキャリアをつくってあげられるかは分からない。

 

そんな中で「いい人を採用しよう」と思ったら、需要と供給の関係から主婦の方に入っていただくのが最適でした。

世間一般的に見ると、主婦の方に対して、「子どもの発熱などで、仕事に穴を開けられる不安がある」といった悪い評価が多いのが気になります。

 

しかし、子どもは毎日熱を出すわけではありません。たとえ月に1回、子どもの看病で帰ることになっても、それ以外の19日間しっかり働いてくれるのであれば、そのほうがメリットは大きいのです。

そういうことを踏まえているからこそ、私は、社員の子どもが発熱した場合には問答無用で帰宅させています。誰しも、子どもが発熱したときには「そばにいてあげたい」と思うものでしょうし、その気持ちに応えることが結果的に会社の仕事に還元されるものだと思っています。

―― 積極的な社員のケアが、やる気を生み出しているのですね。そういうときに、仕事の穴を埋めるために用意された「ペア制度」について教えてください。

●ペア制度=1社のクライアントを社員2人で受け持つ●

重松 制度というと、やや大げさに感じるのですが、「ペア制度」として形になってきたのは、3年ぐらい前からです。

主婦社員の中には夕方4時半に帰る方が多いので、4時半以後の仕事をサポートする人が必要になります。

 

弊社の場合、基本的には周りの社員が主婦社員の仕事を引き継いで行うようになりました。つまり、考えて仕組みを作ったというよりも、現場がそうやって柔軟に対応するしかなかったのです。

ペア制度とは、例えば、1社のクライアントを社員1人が担当するのではなく、ペアを組んで対応する仕組みです。

つまり、Aという旅館をメーンに担当しつつ、Bという旅館もサブで担当するというように、複数人で受け持つようにすることです。

このようにペア制度で仕事を進めていくうちに、決められた期日までに業務を終わらせられれば、担当を分担してやることに問題はないことが分かりました。早く帰るスタッフ全員がペア制度を利用しているわけではなく、個性に合わせて、さじ加減を考えています。

―― 一般的には、仕事を属人化させてしまう(ある社員に特定の仕事を任せるため、その社員がいないと仕事が回らなくなる)ケースが多いと思いますが、ペア制度は「仕事に対して人を付けていく」という考え方なのですね。

重松 そうです。実際は人に仕事を付けることもあります。

“その社員にしかできない仕事”というものもありますから。「人に付けるタイプの仕事と、そうでない仕事を分ける」という考え方が大切だと思っています。

例えば、施設やお客様の課題と向き合ううちに、お客様との信頼関係が生まれ、特定のスタッフにしかできない仕事が出てきます。そうすると、メーンの担当として仕事を務めるのですが、そのスタッフが担当しなくてもよい部分があればできる限り切り離して、まとめて処理したり、効率的にできる方法を考えたりと工夫しています。

―― 現在の社員は男性が2人、女性が3人で、女性は3人とも主婦だということですが、女性の帰宅後、男性陣が業務を引き継いでいるということでしょうか?

重松 おおむねその通りです。女性3人のうち、子どものいない1人は夕方6時まで働いています。

 

弊社では、基本的には仕事は夕方6時まで。それより早く退社する主婦社員2人は、退社するタイミングで仕事が残っていた場合に、他の社員に引き継ぎをします。

 

しかし、徐々に引き継ぎをしなくても済むように段取りするようになってきました。“新しい仕事のやり方”が見えてきて、会社として進化してきたなと感じています。

●ニンジンぶらさげ型の評価制度はやらない●

―― ペア制度を導入すると、評価制度が複雑になると思うのですが、そこはどうされていますか?

重松 今のところ、私と取締役の岩澤で社員の努力と成果を評価していますが、厳密で固定的な評価制度はありません。今後どうするかは未定ですが、モチベーションにもつながりませんので、“ニンジンぶらさげ型”の評価制度はやりたくないと思います。

―― 誰がどんな仕事をしているのか、正確に把握できているからこそですね。社内で各社員が担当している仕事を丁寧に評価するために工夫されていることはありますか?

●ツールで解決できることには積極的に●

重松 例えば、社内メールでコミュニケーションするというスタイルをやめて、「チャットワーク」というツールを使用するスタイルに移行しました。クライアントごとにウェブ上掲示板に書き込んでいくイメージです。

メールだと案件のカテゴリーが分かりづらく、大事なメールが埋もれたり確認漏れが生じたり、とリスクがありますが、チャットワークだと案件が分かりやすく、誰宛てに来たものかも表示されます。テーマごとに絞って、仕事に使いやすくしています。また、忘れないようにタスクを追加する機能もあるので、仕事の締め切りも見落とさなくなっています。

そのほか、ワーク・ライフバランス社さんが提唱している「朝メール・夜メール」も取り入れています。

毎日必ず1日に予定している業務と、“朝の一言”を書くようにしています。

 

例えば、自宅で飼っているうさぎのことや、幻の日本酒を見つけたといったことを自由に書くのです。それに対して、夜メールでは実際に行った仕事の内容を明確にします。これを常にオープンにすると、誰が何をやっているか比較的簡単に把握することができます(参考:「朝夜2通のメールで仕事を見える化、働く時間を短縮」)。

仕事の引き継ぎは、アナログな方法ですが、朝礼と夕礼を活用することが多いです。

―― ツールを活かせば、確認漏れやミスを防げますし、在宅勤務でも活用できるのですね。ちなみに、在宅勤務の頻度はどれくらいでしょう?

重松 昔は在宅勤務が多々ありました。従業員にパソコンを渡して家でも仕事をやるように言っていたのですが、最近は在宅勤務を止める方向に舵を切りました。

 

現在では台風などで翌日会社に来ることが絶対に難しいという状況を除いては、パソコンを渡していません。できる限り家で仕事をさせないようにし、「家はくつろぐところ、会社は仕事をするところ」と明確に分けたほうがいいと考えます。

●仕事の魅力は、企画のスピード!●

―― なるほど。柔軟な在宅ワークはダイバーシティーを保証するものだとも考えられますが、場合によっては残業や過剰な労働を強制することにもなりかねない。
では、岩澤さんは転職されてから働きやすさを実感されていますか?

岩澤優花(以下、岩澤) はい。弊社は働く制度そのものも働きやすさに直結していますが、最も魅力的なのは仕事が進むスピードですね。私がこれまで経験してきた他の会社だと、職場の中には担当業務ごとに「島」があって、そこに1人ずつ部長が座っていました。一つの物事を決めようと思ったら、稟議書を出して、上長に承認を得る必要があり、非常に時間がかかりました。

子どもを産んでこの会社に入ってからは、色々なことが素早く決まる面白さを実感しています。

例えば、私が担当しているお客様の旅館にテレビ取材が入ることになったとき、「こんな絶好のチャンスはない」と考え、テレビ放映記念プランを企画しました。

木曜にお客様に提案してご承諾いただき、金曜に社内で確認、その日のうちにネットで宿泊プランを販売することができました。土曜のテレビ放映後、週末だけで多くの予約が入り、その宿の売り上げに貢献しました。

私はもともと旅行業に携わりたいと思っていたのですが、子育てをしながら、週末勤務の多い旅行業現場で働くのは難しく、この会社の仕事が自分のライフスタイルに合っていると感じています。平日の9時半から夕方5時の間で自分の好きなことが思う存分できていますから。

 

もしこの会社を辞めて大企業に行ったとしたら、子どもが発熱してもなかなか休めないような環境では苦労すると思います。

―― 家族も大切にしたい、そして仕事でもやりがいや人生の面白さを感じたい。それを両方できるのが素晴らしいですね。以前勤めていた会社は、出産を機に辞めざるを得ないという環境があったのでしょうか?

●社内結婚で退職が当たり前だった●

岩澤 社内結婚をすると、女性のほうが肩をたたかれるような古い体質の会社でした。

私が辞めずにいたら、主人は多分どこかの現場に飛ばされていたのではないかと思います。暗黙の了解で私は辞めなくてはいけなくなったわけです。

 

ただ、私が辞めた後に社内結婚をした同期の夫婦は、結婚しても夫婦で同じ会社の同じフロアで働いているそうですから、現在では社風も変わったようです。

―― マタハラもそうですが、職場でハラスメントされたとき、自分のパートナーが同じオフィスにいると声を挙げにくいものです。「止めてください」「改善してください」と声を挙げると、「そんなことを言ったら、旦那の出世に響くぞ」と半ば脅迫される。社内結婚をされた方のつらいところですね。

重松 なぜそんなことをするのか私にはまったく共感できませんが、そういう社風の会社がまだあるのかもしれませんね。やはり、大きな会社は独自のルールがあり、規律上・道徳上よくないという、枠にはめる傾向が強いのでしょうか。

 

職場のダイバーシティーを進め、またハラスメントを解消することこそが、人材の雇用継続と活用につながり、経営戦略が生まれるという確信を持っています。この認識を広めたいと思っているのですが、経営者の間ではこういう考えが広まっていると感じますか?

重松 そもそも、そういった話は経営者の間ではなかなかしない、というのが実情です。まったく無いと言っていいくらいです。

 

「採用が大変だ」という話はしても、自分にとって社員とはどのような存在なのか、自社の社員をどう捉えているのか、といった話はしません。もちろん、マタハラといったことも。

私達の規模の会社の間で認識が広まるには時間がかかりそうですし、まずは、大企業から企業体質変えざるを得ない状況になるでしょう。状況を改善して、離職率も減り、会社の業績も増えたといったデータが出てくると違うと思いますが。

●当たり前のことを見つめなおす●

―― 御社の場合はいかがですか?

重松 主婦の社員に活躍してもらっていますので、マタハラなんて言葉はそもそもありませんし、これからもないでしょう。でも、特別なことをしている意識はなく、当たり前のことを当たり前にしているだけです。

ただ、その結果、業績をどれだけ伸ばしていけるかどうかは、これからにかかっています。新規事業を進めようと思っているところですし、事業計画もありますので、この3年間はそれほど売り上げが増えてはおらず、準備期間だと捉えています。

 

仕事を効率化することによって、これまでは私が担当していたような基本的な作業も、他の社員達に任せられるようになり、会社の将来を動かす仕事を、外に出て行うことができるようになってきましたし。経営状態はまだバラ色ではありませんが、会社としてはきちんとやっていると思います。

それに、人材の定着率が劇的に改善されました。残業があったころに比べても、全体の仕事の質がよくなっています。これも明らかな変化です。そして、私を含め、社員が生活もちゃんと楽しめている。皆が幸せになっている。

―― それが何よりも重要です。そして、最高ですね!

インタビュー:2015年11月

小酒部さやかの「取材後記」

「主婦の方大歓迎!」を謳い、求人を出す「旅館総合研究所」さん。子どもが急に発熱するなど主婦は敬遠されがちですが、重松代表は常識を逆手に取り、こう主張します。

「主婦だからこそ、社会常識があって、コミュニケーション能力に長け、時間感覚がタイトで、仕事の集中力が高い」

主婦を活かすためにも、急なトラブルに対応できる社内の仕組みに秘訣があるはず――。素朴な疑問に始まった取材は、「人材を最強のカードにする方法」に行きつきました。その方法とは「経営者自身が成長し変化すること」。この“当たり前の事実”がよく分かるインタビューとなりました。

重松正弥(しげまつ・まさや)

旅館総合研究所代表取締役

早稲田大学理工学部卒業後、総合スーパーのダイエーに入社。その後、人材派遣のパソナ、高級レストランひらまつを経て、2006年星野リゾートに入社。ゴールドマンサックスと共に全国の温泉旅館再生事業を担当。2008年に現在の旅館集客コンサルタント業務を行う、「旅館総合研究所」を設立。

ホームページ:http://ryokan.co.jp/

フェイスブック:https://www.facebook.com/ryokansoken